ビッグコミック創刊物語(滝田誠一郎、祥伝社黄金文庫)

1968年に創刊され、40年を超える歴史を持つビッグコミック。その創刊前後について書かれたノンフィクションです。
子供向け漫画雑誌か大人向けのエロ・グロナンセンス漫画誌しか無かった時代。大人が漫画を読むことに眉をひそめる人も多かった頃に、新しい青年向けコミック誌を創刊する編集者と執筆する漫画家のエピソードがとてつもなく熱いです。

創刊時の執筆メンバーは、さいとうたかを白土三平石ノ森章太郎(当時は石森章太郎)・手塚治虫水木しげる。漫画界のビッグネームです。その大漫画家達に「10年、20年と続く大作を描いて欲しい」と依頼する創刊編集長。その言葉に応え、それぞれが新しい試みに挑戦して気合いの入った原稿を描く作家達。当時の作家や編集者のインタビューから創刊当時の熱気が伝わってきます。
この本の読みどころは、創刊編集長の小西湧之助という強烈な人物です。自分の肌感覚で良い悪いを決定し、毒舌を吐く。自分が決めた雑誌の色をかたくなに守る。スペリオールやオリジナルなどビックコミックファミリーを次々に創刊し成功させ、BE-PALDIMEなど小学館の情報誌の礎を作った名編集者なのです。
創刊時の編集者も他の漫画雑誌がやらない面白いものを乗せようと楽しんで編集していたエピソードもあって、そういう個性の集合体があったからこそ新しいコミック誌として成功したのだと納得です。偉大なるマンネリと言われ(ゴルゴ13は40年以上連載!)、創刊以来の「ビッグらしさ」が40年以上も保たれているのは創刊メンバーの編集スタイルというものが現在も変わっていないことの証拠でしょう。

藤子不二雄ファンとしては、F先生が「ミノタウロスの皿」を執筆されたときのエピソードがあったのが興味深かったです。

現在、漫画はカルチャーとして認められ、新しい表現や才能もでてきています。しかし、この頃のような『熱さ』は失われてしまったのかも。それは漫画界にとって幸せなことなのだろうか…などと考えてしまいました。

ビッグコミック創刊物語 (祥伝社黄金文庫)

ビッグコミック創刊物語 (祥伝社黄金文庫)