手紙(東野圭吾、文春文庫)を読みました

弟の進学資金のために犯した強盗殺人の罪で服役中の兄・剛志がいる弟・直貴。その兄から月に一度届く手紙。「強盗殺人犯の弟」として生きねばならなくなった直貴の過酷な人生が描かれます。進学や夢の実現、就職、結婚など直貴の人生が変わろうとしている度に「強盗殺人犯の兄」の存在が、それらを奪い去っていきます。その度ごとに「差別とは?」「お前だったらどうする?」という問いを作者から突きつけられている気がしました。
「家族に殺人者がいる」ということに対する差別は【してはいけない】という気持ちがあるのは確かです。ただ、それは道徳とか常識とかで考えているだけで、実際にそういう現実が目の前にあったら「差別」せずにいられるのか?というのは分からないとしか私はは答えられません。

作中で直貴の人生に重要な契機を与える人物の言葉が印象に残ります。

「差別はね、当然なんだよ」
「大抵の人間は、犯罪からは遠いところに身を置いておきたいものだ。犯罪者、特に強盗殺人などという凶悪犯罪を犯した人間とは、間接的にせよ関わり合いにはなりたくないものだ。ちょっとした関係から、おかしなことに巻き込まれないともかぎらないからね。犯罪者やそれに近い人間を排除するというのは、しごくまっとうな行為なんだ。自己防衛本とでもいえばいいかな」

弟に宛てた兄からの手紙の内容が非常に脳天気なのが変な感じでした。作中で重要な意味合いを持つ手紙なのにこんな内容でいいのか?と読んでいる間ずっと思っていたのです。ラスト近くでの最後の「手紙」を読んでその意味が分かったとき、ものすごく切ない気分になりました。読後の余韻がずーっと残る良い小説だと思います。

手紙 (文春文庫)

手紙 (文春文庫)