桐島、部活やめるってよ(朝井リョウ、集英社文庫)を読みました

先日映画を見て原作が読みたくなったので読んでみました。直木賞作家朝井リョウのデビュー作。

菊池宏樹(野球部だけどほぼ幽霊部員)、小泉風助(バレー部)、沢島亜矢(吹奏楽部)、前田涼也(映画部)、宮部実果(ソフトボール部)の5人の高校生の視点で高校生活が語られる短編集です。
気になる題名に出てくる「桐島(バレー部)」は登場せず、語られるのも桐島の控えである風助の章がほとんどです。タイトルと中身はほとんど関係なんだけど、気になって手にとらせる上手いタイトルだなと思います。

菊池宏樹以外の4人は自分のやりたいことや目的がはっきりしていて、迷いがあるけど進もうとしているキャラクター。でも最初と最後の章の語り手である『菊池宏樹』はなんでもそこそこできて可愛い彼女もいるけど、やりたいことが分からないキャラクターとして描かれています。この菊池宏樹こそがこの作品の主人公なのだと感じました。
何かもやもやしていて前に出ることができないもどかしさを持つ人物なのですが、それこそが「思春期の若者」のリアルなんじゃないでしょうか。自分の高校時代を振り返っても中途半端で何かに夢中になっていたりがむしゃらに前に進んだりしていなかったのでそう感じるのかもしれませんが…(可愛い彼女もいなかったし、全然イケてなかったですけどね(笑))。それぞれの高校時代の過ごし方によって共感するキャラクターが違うのかもしれません。

5人の中で一番輝いていると思ったのは、格好良くない映画部の前田です。映画好きな親友もいるし、好きな映画を作って賞も獲っているくらいなんんですから。その彼を見て菊池は凄くまぶしく感じるわけです。

宮部実果の章はショッキングな内容でした。自分の父親が再婚した母親の連れ子である姉・カオリと父親が交通事故で亡くなって、母親が自分を自分の娘(つまり姉)と思い込んでしまうって話。家では自分は『実果』ではなくて『カオリ』なのです。実果が消えて無くなってしまう。これは切ないです。この章だけちょっと異質なんですけど、凄く印象に残りました。

青春小説として面白くて楽しめました。映画と小説はストーリー、キャラクターが違うのでどっちからでも楽しめますね。私はどっちかというと映画の方が好きかなぁ。

桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)

桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)