虚栄の肖像(北森鴻、文春文庫)

絵画修復師・佐月恭壱が主人公の短編ミステリです。前作「深淵のガランス」に続く第二弾短編集となります。
絵画修復の対象となる美術品には様々な人間の思惑が隠されており、絵画修復師・佐月がその美術品と対峙することで隠された真相を見いだすというのが基本的なストーリーです。出てくる人物がことごとく素直でない人ばかりなので、途中では全く真相が分からず謎に引き込まれてぐいぐい読まされます。修復に関する描写も詳しく描かれていて、その作業の精緻さと息が詰まるほどの緊張感が伝わってくるほど。とにかく美術品修復シーンの迫力が凄いです。そのシーンを読んでいると何ともいえない色気を感じます。
3編の短編が収録されているのですが、藤田嗣治の絵画修復を巡り昔の恋人との再会を描いた「葡萄と乳房」が切なくて私は好きです。佐月恭壱が昔の恋人のためにあるモノを制作するのですが、その行動からは彼女に対する深い愛を感じるのです。
2作目ということもあって、佐月の学生時代や父親との関係も描かれて徐々に人物像が明らかになっていくのも注目です。ですが、北森鴻さんはすでにお亡くなりになっているので続きを読むことができないのが残念でなりません。
北森作品の愛読者なら、冬の狐を名乗る旗師のあの人も出てくるのもお楽しみです。

虚栄の肖像 (文春文庫)

虚栄の肖像 (文春文庫)