あるキング(伊坂幸太郎、徳間文庫)

何とも不思議な小説でした。シェークスピアの「マクベス」をモチーフにした悲劇です。
野球の「王」となる運命を持って生まれてきた少年「王求(おうく)」が、その突き抜けた野球の才能(努力も凄いですが)で活躍し破滅する話です。そのすさまじいまでの野球の才能が主人公以外の人物の視線で語られるので、その孤高の才能がより強調されて感じられます。その孤高さ故にまさに神のような存在感です。
沢山の人が王求に関わりますが、彼の天才的な才能によって救われる人もいれば不幸になる人もいます。絶対的な才能を目の当たりにしたときに自分だったらどんな感情を抱くのか?、というシミュレーションとして登場人物の中に自分と近い人をみつけるのもこの本を読む楽しみかなと思いました。

話の中に頻繁に出てくる「マクベス」のセリフ「フェアはファウル、ファウルはフェア」。主人公自身も人を殺したりしますし、でもそれは友人を助けるためだったりするのです。果たして何が正しくて、何が悪いのか?この作品は、世界は曖昧であり見方により世界は違うということを伝えたかったと受け取りました。どの世界も等しく、正しいし悪いのですから。

伊坂さんの作品の中ではかなり変わっている部類の作品だと思います。でもセリフの面白さはいつもの作品と同じです。延々引用したくなるくらい。
読み終わった後「マクベス」を読みたくなりました。この作品舞台にしたら面白いと思います。どこかでやらないかな?