天地明察(冲方丁、角川文庫)

碁打ち・暦法家の渋川春海が貞享暦を打ち立てるまでの物語です。定石を打つだけの碁打ちとしての仕事に飽き、「真剣勝負がしたい」と算術と天文観測に熱中した青春時代から挫折を経て日本独自の暦である大和歴が採用されるまでの生涯が描かれます。
晴海自身も魅力的な人物なのですがその晴海の周りの人物がみな個性の強い魅力的な人々で物語に引き込まれます。将軍の後見人の保科正之水戸光圀大老酒井など歴史上の大人物が出てくれば、算術家の関孝和(群馬の人には「和算の大家、関孝和」でおなじみ)が算術でのライバルとして登場します。とにかく出てくる人が皆気持ちの良い人物ばかりで、話しの面白さもあり読んでいて気持ちの良い小説でした。武芸の世から文化の世に変わる時代のパラダイムシフトの物語としても読めます。
読んでいて楽しい小説だっただけに、もう少しページ数があったらなあと思わずにはいられません。特に後半の大和歴を構築していくあたりや朝廷に大和歴を採用させる工作のあたりなどもう少しじっくり読みたかったです。
私は時代小説は余り読まないのですが、文体からしても時代小説らしさがないので読みやすかったと思います。新しい時代小説といった印象を持ちました。
同じ作者が強烈なキャラクターの水戸光圀を書いた「光圀伝」も読みたくなりました。

天地明察(上) (角川文庫)

天地明察(上) (角川文庫)

天地明察(下) (角川文庫)

天地明察(下) (角川文庫)